経験者インタビュー

[スコーパソン参加団体に聞く]
外の人を巻き込みたかった私と
真剣に考えてくれる人との出会い

須田麻佑子さん
一般社団法人Try Angle
PROFILE
一般社団法人Try Angle(トライアングル)は石川県金沢市を拠点に、「病気や障害の有無にかかわらず誰もが旅行を楽しめる社会」というビジョンのもと、全国の医療的ケア児の旅行支援や外出支援に取り組んでいる団体です。
課題整理ワークショップ「スコーパソン」を経て、プロボノとプロジェクトを協働されたTry Angle代表理事の須田麻佑子さんに、スコーパソンの感想や参加者とのプロジェクトの取り組みについてお話しを伺いました。

※障害の有無にかかわらずお子さんたちが遊びを楽しむ活動「遊びのサークル」にて。写真右が須田さん
東京から金沢に移住して活動をスタート
一般社団法人Try Angle(トライアングル)は、主に医療的ケアが必要なお子さんたちである「医療的ケア児」の旅行や外出の支援をしている団体です。
医療的ケアが必要なお子さんたちは旅行や外出が難しいと言われています。そもそも医療機器の手配が必要で大荷物になったり、普通の車椅子よりも大きなバギーに乗って移動していたりということで外出に困難さを感じています。そういったお子さんたちが「旅行を楽しみたい」という気持ちは、他のお子さんやご家族と同じですので、何とか理解を進めていって、外出しやすい社会をつくっていきたい、旅行しやすい社会を作っていきたいと思いながら活動しています。

団体を立ち上げる前は、東京のNPO法人で病児保育や広報の仕事をしていました。医療的ケア児の保育を行う事業も展開している団体でしたので、医療的ケアを必要とするお子さんたちが保育園に通えず、また、親御さんが働き続けることが難しいという課題は認識していました。
その後、私自身が東京から金沢に移住することになり週に1日、副業で金沢の一棟貸しの宿を運営している会社で働き始めました。そこでのある在宅医療の先生と出会いが今の活動のきっかけとなりました。
在宅医療の先生から「一棟貸しの宿は医療的ケア児と結構相性がいいと思う」というお話しがあったのです。確かに一棟貸しの宿は玄関が普通のホテルよりも広くてバギーを置いておくスペースがあったり、和室だと気兼ねなくお子さんを寝かせることができたり、元々古い家屋や町屋をリノベーションしているのでコンセントや鴨居など一軒家にあるようなものが普通にあります。ホテルだとコンセントの数が少ないけれども、医療的ケア児にとっては医療機器に繋ぐためのコンセントがいろんなところにあった方がいい、じゃあ旅行支援をやってみよう、というところから活動が始まりました。
知ってしまったからには放っておけなかった
医療的ケア児とご家族の旅行支援に実際に向き合ってみると、「私たちにとっては何も不便を感じない通路の幅やドアの開き方に対して、こんなに難しさを感じるのか」とか、「車椅子が重たくて曲がることや、3センチしかない段差も超えるのがこんなに大変なのか」と気づくことはたくさんありました。逆に、段差があるからスロープがあった方がいいんじゃないかと思い、先走ってスロープの手配をしたこともあるんですが、スロープでは勾配が急すぎて使えない、ということもありました。直接会って喋って、関わって、やってみることでわかることがいっぱいあるんだなと感じました。
その経験をもとに、「医療的ケア児の旅行ガイドライン」を作成し、オンラインストアで販売を開始しました。
団体の外の人も巻き込みたいと考えていたときにスコーパソンを知りました
サービスグラントとの出会いとなったのは「スコーパソン」(プロボノワーカーがチームで課題整理を手伝うという約2時間のワークショップ)というイベントです。

冊子の販売をするにあたり、任意団体から一般社団法人になりました。でも、これから医療的ケア児の旅行をどんどん支援していこうと思った途端、コロナが流行ってしまって、理事である在宅のドクターも、観光業界の方も、私自身もすごく忙しくて落ち着いて物事を考えられない状況になりました。それから2年ぐらいコロナ禍が続く中で、オンラインセミナーをやったりしていたんですけど、コロナがあけた時のことを考えないといけないと常々思っていました。

団体の活動を考える人はやっぱり必要で、今までその大部分を自分1人で頑張っていたけれど、自分だけの発想だと限界があると感じていました。発想も柔軟じゃないし、課題を整理するって言っても自分が思いつく範囲になってしまう。自分ができるかどうかでジャッジしてしまうところがあったりする。もっと他の人を巻き込んでいかないとよくないって思っていたけれど、どこから手つけたらいいかわからなかった。そんな時に、サービスグラントさんの「スコーパソン」の案内を知り、私が今求めているものはこれだと思いました。色々あるけれども何から具体的に手を付けていったらいいのかわからない、そこを助けていただいたっていう感じですね。
私以外にもこんなに真剣に考えてくれる人がいた
スコーパソンで私たちの団体を支援してくださったのは3人のプロボノの方々でした。
これまでは医療系、福祉系の方とお話しする機会が多かったので、医療的ケア児はどういうお子さんで、どういう課題があるかということについてイメージできる方たちとの会話だったんですね。でも、医療的ケア児を全く知らない人たちに説明する時には、どういう情報が必要なのかがわかり、自分自身も学びになりましたし、「初めまして」の人に団体のことを説明することの難しさを体感するいい機会になりました。
説明する中で「そんな課題があるって知らなかったです。これをやっていくってすごく大事なことですよね」というフィードバックをもらい、活動の意義を再確認できました。

自分で団体の課題をお話しするのは本当に恥ずかしいんですね。でもプロボノの皆さんが一生懸命考えてくださって。今後の方向性をこんなに真剣に考えてくれる人がいるんだと喜びを感じたのがスコーパソンの1番の思い出かなと思います。
スコーパソンでの課題整理の結果は「中期計画の立案」
課題を整理していく中で「病気や障害の有無に関わらず誰もが安心して旅行を楽しめる社会」というビジョンはありながらも、3年後、5年後に、どうなっていたいのかという中期計画がないことが気になってきました。ビジョンを実現するためにはどんな行動が必要なのか。どんな行動の結果、どんな成果が出てくるとそれに近づいていけるのか。今後の活動内容を決めて必要な資金を調達していく中でも、そういったところが固まっていないとどう着手していけばいいかわからない。必要と思うことを手あたり次第やっていっては今と変わらない。それをちゃんと整理して計画をたてられると、安心して、自信を持って活動を推進していくことができるんじゃないかなと思いました。
最終的にスコーパソンでは、「中期の事業計画の立案を考えてくれる人材を募集する」という結論で終了となり、その後、プロジェクトとして募集記事を公開しました。

スコーパソンの成果が募集記事につながりました
主体的な提案が嬉しかった
GRANTで掲載した募集に何人か「気になる」登録をしてくださっていましたが、最終的には、ご自身もそれまでのボランティアのご経験から医療的ケア児の外出の課題について、すごく熱い思いを持って応募してくださった F.Sさん にお願いすることなりました。

最初に面談をしたときに団体が今までやってきたこと、実現したいことについてお話をしました。プロボノのF.SさんはNPO団体の中期経営計画を作るのは初めてということだったんですけど、ご自身でも色々調べてくださったうえで提案してくださいました。 プロジェクトでは、団体の理事もミーティングに入りながら、F.Sさんの提案資料にフィードバックをしたり、ビジョン実現に向けて行っていくべきことについて資料に反映していただきながら作っていきました。

1番すごいと思ったのは、私たちがこれまで発信していた「医療的ケア児が旅行できる環境をつくることは、他の障害のある人たちも旅行しやすい環境につながっている」という内容を、厚生労働省の「障害者白書」の数値を活用しながら説得力ある1枚の資料にまとめていただいたことです。資料そのもののわかりやすさ、凄さみたいなのも感じましたし、プロボノのF.Sさんがご自身で調べたり、主体的に考えて提案をしてくださったことが、もうほんとに嬉しかったです。
今後、検討していきたいことは?
今回のプロボノの活動は中期経営計画を作る、新規事業の立案でしたが、F.Sさんは、これからも計画の実現に関わっていきたいっておっしゃってくださいました。プロジェクトが完了した後も、新しい事業を実現するための資金調達や助成金の申請、企画書の作成を支援いただく予定です。

今後は、医療的ケア児の旅行や外出を応援したい人たちをネットワーク化したり、情報交換する場をつくったり、お出かけの経験をまとめてあるようなポータルサイトの構築を検討していきたいと思っているところです。
医療的ケア児の旅行を応援したい、サポートしたいと思ってくださる人たちと繋がりながら、もっと出かけやすい環境を作っていくために必要な活動をしていきたいです。


※このインタビュー記事は、2023年8月11日(金)放送の渋谷のラジオ「渋谷でプロボノ~大人の社会科見学」で放送された内容をもとに構成しています。