経験者インタビュー

GRANTは僕らの経験や知識と
プロボノの方のスキルを
交換するプラットフォーム

齋藤和輝さん
一般社団法人 路上博物館
一般社団法人 路上博物館は、博物館の社会的な価値を高めるために、人々に博物館の面白さを伝える活動と、今よりもっと面白い博物館を作る取り組みをしています。得意とする3Dスキャン技術を用いてイベントを行ったり、動物の頭蓋標本のカプセルトイを発売するなど活動の幅を広げています。
団体の課題の解決のために2つのプロジェクトを実施しました。1度は応募がなかった中で内容を見直して無事マッチング。GRANTとの出会いからプロジェクトの完了までを理事の齋藤和輝さんにお話しを伺いました。
博物館はもっと面白い、面白くなる
一般社団法人 路上博物館は5月18日に4周年を迎えました。路上博物館は代表理事である森が国立科学博物館で研究者として働いていたときに、博物館に来ない人にも博物館資料の面白さを届けられないかと考え、路上で展示活動をしたことが「路上博物館」の原点となっています。そして法人化以降は「博物館はもっと面白い」をビジョンに掲げて活動しています。
僕は、路上で標本を展示していた森と出会って意気投合し、一般社団法人の創業時から一緒に活動しています。GRANTの登録や支援者の方々とのやり取りなどは、主に僕の役回りとなっています。

路上博物館のコンセプトは2つあります。博物館の魅力を外部に届けることともっと面白い博物館ってなんだろうっていうのを考え自ら実践していくっていうこと。博物館はもっと面白い、面白くなるんじゃないかということで活動している団体です。

団体の事業の大きな柱は3D関連です。例えば、博物館や大学、美術館等からの依頼で資料の3Dデータ化を行って3Dスキャンして納品したり、場合によっては3Dプリントまで対応します。企業に対して、博物館の資料の活用に関してコーディネートを行うこともあります。
去年、路上博物館3D撮影旅団(以下、旅団)というコミュニティを運営する事業が始まりました。一般の参加者を募集して、3Dのスキャンや3Dプリント、VRの作り方をレクチャーし、実際、博物館に行って3Dスキャンをして最後は作品の発表会を行うという活動です。ちょうど2期目の募集が終わって7月から動き出すところです。
団体のコンセプトの体現に近い事業としてはイベントでの展示があります。我々が3Dプリントした博物館の標本のレプリカを路上に展示するイベントです。普段あまり博物館に足を運ばない人たちに博物館の魅力を届けたい。博物館の面白さを外に持っていくというところで大切な事業の1つと考えていますし、大切な資料を守りながら人々に開いていくために、3Dデータを活用することが新しい選択肢になりつつあることを感じています。

子ども向けセミナーの様子
GRANTは使いやすいシステム
僕自身は市民活動を支援する中間支援組織でも仕事をしているのでサービスグラントの名前は聞いたことがありました。プロボノの支援をお願いするというよりも団体さんに紹介する側で知っていたということになります。 千葉県東葛地域の資金分配団体であるNPO法人ACOBA(GRANTのコーディネーター、ACOBAプロボノさん)さんから僕たちの団体が休眠預金の助成を受けた際に「使ってみませんか」と紹介を受けたことがGRANTを知ったきっかけです。

それまではクラウドソーシングを活用したり、業務委託として外注しながら仕事をすることに慣れていたこともあって、すぐに、GRANTは自分たちにはない専門性について要件定義をして募集すれば誰かが来てくれるかもしれない、というイメージを持つことができました。

GRANTではこれまでに営業資料作りと広報まわりの支援の2つのプロジェクトを実施しました。募集記事は、僕らにあまり興味を持っていない方に向けてという前提で、たくさん読まなくてもいい、わかりづらい表現は減らしてさっと読めるようにという2つを意識しながら整えていきました。
プロジェクト1:営業資料作り
団体は常に人手は足りていないので課題があります。営業資料作りのプロジェクト(「博物館を盛り上げる活動の営業資料作りの支援募集!」)は、助成金と直結した課題で旅団事業の収益化を目的とした内容でした。ビジネスの知見がある方に、事業性を見据えてどういったポイントをどういうロジックでやるとわかりやすくて響くかという点を壁打ちしてもらいたいと思っていたところ、ピッタリの方との出会いがありプロジェクトは無事に完了しました。

支援募集記事:博物館を盛り上げる活動の営業資料作りの支援募集!
プロジェクト2:広報まわりのプロジェクト
他にも、なかなか情報発信に手が回らず、イベントの予定やメディアに掲載があった場合でも3分の1ぐらいしかウェブ上で発信できないという課題がありました。広報まわりのプロジェクトに関して、最初は僕たちのイベントの予定等をホームページの公開まで手伝ってくれたらありがたいと思いながら募集してみたんですけど、1回目は応募がないまま締切になってしまいました。なので内容を書き換えてもう一度募集をかけてみたんです。改めて募集するときは「プレスリリース作成の経験者募集」としました。

支援募集記事:プレスリリース作成の経験者募集

今度はメディアで仕事をしている方から手が挙がりました。スタート時点で要件の明確化については注意を払い、最初の打ち合わせでは、エントリーした方ができることやしたいことと、僕たちで助けてほしい、支援してほしいという部分のすり合わせを行いました。 最終的なプロジェクトのゴールとして「新しい商品(動物の頭蓋標本のカプセルトイ)のプレスリリースをブラッシュアップする」ことで決まりました。既出のプレスリリースの改善点も伝えてくれたので一緒に改善しながら進めることができればと思って進めました。
プロボノの方との経験、知識のトレードの場
プロボノの方は非常にモチベーションが高く勉強熱心で、プレスリリースの受け手として非常に豊富な経験をお持ちでした。それだけに「今回のプロジェクトではプレスリリースを出す側としての色々な発見があってよかった」と振り返りの中で言っていただけたことは嬉しかったです。
僕はウェブ系のライティングに関しては多少経験があって、プロボノの方はどちらかというと紙やテレビに強い。僕の方から「ウェブだったらこうですね」みたいな話しをすると「なるほどそうなんですね」という感じがあって、ある意味、経験、知識のトレードが行われていたなという印象があり、プロボノとの付き合い方としては僕の中では健全な形として心苦しさなくご一緒することができました。

今回のプレスリリースで掲載を狙っていたのは新聞系で、結果、全国紙に大きく載りました。あとは地方紙とウェブ記事、Yahooニュースにも掲載されたみたいです。プレスリリースの送り先の検討についてもご一緒できたので、プレスリリースについての戦略が見えるようになったことは良かったなと思います。

プロジェクトでの発見は大きく2つありました。1つはプレスリリースのタイミングです。「メディアの中の動きを想定して時期を決めるといいですよ」という話が非常にわかりやすくて納得感がありました。もう1つは掲載する情報の取捨選択です。どの情報がメディアにとって価値があるのかというところを判断してもらって、リリースの内容を思い切って削ったり書き換えたりしました。結果、ちゃんと反応もあったのでこちらもなるほどと思いました。
プレスリリースの成果が出てよかったです。プロジェクトは終了しましたが、次にまたご一緒できないかと話をしています。

成果物:【プレスリリース】〝本物〟の骨ガチャで博物館を届けたいゾウ・キリン・カバの頭骨標本カプセルトイが4月25日から販売開始!
プロボノにお願いすることで打率が上がるなら!
2つのプロジェクトはほぼ同時にスタートしたのですが、ボランティアとして無償で支援してもらうのはこれが初めての経験だったんです。僕の中には「専門性を持った方に頼むならお金を払う」という気持ちがあったので、プロボノにお願いする際、無償ということに抵抗感があったんですけど、せっかくACOBAさんがGRANTを使ってみればと言ってくれていたのでやってみようと思ったんです。

新しい企画は、いつも最初はすごく抽象度が高くて、なんかいいんじゃないとか、なんか面白そうと言っている中でからちょっとずつ検証していくと徐々に何が必要なのかが見えてきて、必要なものの優先順位がわかってきます。 事業全体のバランスの中で、プロボノの参加によって何らかのコストやリスクが軽減されそうだったら募集してみてもいい。すぐに出会いがなくても、またそのうちタイミングが来ると思って募集したことを半分忘れながら別のものに取り組んでいればいいと思っています。自分たちに不足しているスキルについて、支援を仰ぐことで打率が上がる期待が持てます。

昨日、旅団のメンバーが手伝いを申し出てくれたんですよ。旅団というコミュニティは自分たちの体制強化の意味合いもあるので、自分たちでプロボノのプールを作りたいという思いも確かにあります。そういう意味でも手が挙がったのは嬉しかったです。 一方で、今回の営業資料作りをご一緒してくださった方やプレスリリースを担当してくださった方など、僕たちのまわりにはいないタイプと出会いたい場合はGRANTのようなプラットフォームはありがたいです。僕にとっては、飲み屋で面白い人と会えるぐらいの確率で出会えればいいというイメージかもしれないですね。
GRANTはたまたま出会える場として気軽に使ってみると面白い
GRANTは「僕らの経験や知識、現場に参加する機会」と「プロボノの方の経験やスキル」を交換するプラットフォームというイメージを持っているんです。そうするとこの仕組みも使いやすいという気がしています。
プロボノに参加する人には僕たちの場合は博物館の裏側にアクセスできるとかお金ではないユニークな機会を提供できます。今回のプロジェクトだったら、参加した方はウェブでの文章の書き方など、僕の過去の経験に価値を感じてくれる一方で、僕らはメディアの中の人としてプレスリリースの受け取り手としての経験に価値を感じる。だから、お互い合意の上で交換することができたということです。GRANTがそういう場所と考えると非常に面白いと思います。

先ほど、飲み屋で面白い人と会えるぐらいの確率って言ったんですけど、人手が足りないから絶対来てほしいということだったらお金を払って依頼することを検討した方がいいかもしれないと思います。そうじゃなくて、その事業を進めるにあたって追い風となってくれそうな人とたまたま会えるかもしれない場というぐらいの感じで使うのがいいと思いますし、いきなりGRANTの募集記事を整えるというよりも、まわりの人たちに「こういう人に協力して欲しいんだよね」とか「こういう人いない?」という話をしていく中で、徐々に何が必要なのかっていうのが見えてくる気がしています。それが見えたと思ったらGRANTで募集してみる。こういうやり方が初めてGRANTで募集する団体さんにとっても使いやすいんだろうという気がします。とにかく頑張りすぎないというスタンスで活用することがいいと思うんですよね。


※掲載内容は2024年5月取材時点のものです。