経験者インタビュー

NPO会計支援の場としての可能性
会計の専門家の皆さん
GRANTに集合しませんか?

草野杏子さん
NPO勤務(会計、財務)
PROFILE
企業経理として10年実務に携わり、思いがけず2020年にサービスグラントに入職しNPO会計と出会い、学びを深めてきました。幅広い会計のスキルや経験を活かす場として2023年秋よりGRANTに参加しています。
※草野さんのGRANT参加実績はこちらからご覧いただけます。

一貫して会計の専門性を深め、現在ではサービスグラントの経理を担っている草野さん。これまでのプロボノでの経験やGRANTで会計分野を支援することについてお話を伺いました。
会計がわかる人になりたかった
中学生の頃から父の税理士事務所で確定申告を手伝っていました。そのときから将来は「会計がわかる人」になりたかったんですけれども、父から「これからはシステムの時代」と言われたこともあって会計システムを構築するプログラマーを目指すようになり、新卒ではシステムプログラムを担う職に就きました。
企業の売掛金システムと連結会計のシステム構築を担当していましたが、やはり会計の実務をやりたいということで上長に談判して経理部へ異動し約10年経理実務を担当しました。
大企業の経理は役割が細分化しています。「請求書作成担当を30年」という方もおられるなかで「はたして自分の実務レベルは高まっているのだろうか」いう不安を常に抱えていました。そういった思いもあってその後転職して外資系企業で英語会計を経験しました。

「サービスグラント」や「プロボノ」という言葉とはヘアサロンで目を通していた雑誌の記事で出会いました。その日がちょうど採用説明会の当日だったという偶然からのご縁で、現在はサービスグラントで経理を担当しています。
サービスグラントの仕事の裁量が大きいところや、何かを提案すると「じゃあやってみれば」と言われる環境が私に合っていると思います。非常に面白さと成長性を感じながら日々仕事をしているところです。

それまでNPOに関する知識はまるでなく、途上国の子どもたちを支援する団体のスポンサーシッププログラムへの寄付は行っていたものの、確定申告のときに寄付金控除を欠かさず行っているだけという時期が長くありました。サービスグラントとご縁があってからNPOの世界を知り、今はどっぷりはまっています。
団体内部のパワーが鍵
会計業務のスキルを活かしたボランティアの経験はGRANTが初めてでした。サービスグラントの経理を担当するようになってからNPO会計を勉強し、副業でも他の団体の財務会計を支援していたのですが、GRANTに参加したのは同僚から「GRANTで会計系の募集案件があるから支援を検討してみたら?」と教えられたことがきっかけです。「私ができる範囲で困っている団体さんを支援できるなら」という思いで会計系の募集にアンテナを張るようになりました。知っていく中でGRANTが気軽に支援できる仕組みであることにも驚きました。

NPO会計は企業会計とは大きく異なっていまして、例えば法人税の考え方が違います。企業の場合は利益に対して法人税がかかります。なのでどのように損金算入するかというところがポイントになるのですが、NPOの場合はまず利益が公益事業か収益事業か分けるところから始まります。その区分の仕方も理解が難しいところで、サービスグラントに入職後は何度も税務署の担当者に質問をし「どの事業が法人税の対象となる収益事業で、どの部分が法人税の計算対象から外していい分野か」というところへの理解を深めていきました。事業の契約書を読み込んで解読しなければいけないところもあり、そういうステップを踏んで仕事を進めていくことが初めてだったので非常に勉強になりました。

これまでにGRANT以外でも副業で3つの団体の支援をした経験があるのですが、会計業務がアナログでクラウド会計が導入されていないという共通項がありました。手作業で行っている経理業務をクラウドに移行して運用フローを組む人員や、推進に必要な会計知識を持った人員がいないという現実があります。そういった場面に直面したときに、私が団体さんに入って「クラウド会計にすればこんなに楽になりますよ」と説明することは簡単ですけれども、外部者が提案した場合に内部の方が「よし、やろうか」と腰を上げて取り組むところの難しさは感じていました。

やり方が効率的ではないとわかっていても変えることにはつながらない。変えることが怖いということもあると思います。団体内でこれまで担当してきた方が「クラウド対応をやりましょう」となるための土台をつくる、モチベーションを上げるっていうところが難しかったという印象を持ちました。結局、外部の人間がお膳立てをしたところで内部のパワーが鍵ですし、根本的にはNPO業界はマンパワー不足ということを強く感じました。
オンライン相談は「ちょっと聞いてみたい」ときに役立つ機能
GRANTは「オンライン相談」への支援がスタートです。NPO法人 エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)さんの「クラウド会計freeeを使った経費処理(勘定科目の設定等)について教えてください」です。E-BeCさんは「乳房再建手術」への正しい理解の普及と乳がん患者さんのQOL向上を目指して活動されている団体さんで、先にお話したように同僚からの声かけがきっかけで支援にかかわることになりました。

支援募集記事:クラウド会計freeeを使った経費処理について教えてください

「数字が合わない」というご相談でしたので帳簿を見せていただき、わからない点について実際にクラウドツールfreee(フリー)の画面を見ながら仕訳の説明をして「こういう状態になっていればいいんですよ」ということをお話させていただきました。複式簿記の知識がないと伝えにくい内容もあるということがわかった初めてのケースだったのでよく覚えています。加えて、オンライン相談が「この部分について質問したい」という時に活用できるすごくいい機能と感じることができました。
助成金の精算に向けた支援プロジェクト
次に取り組んだのは一般社団法人みんにこさんのプロジェクト「会計処理のQ&Aアドバイス!」です。

支援募集記事:会計処理のQ&Aアドバイス!

みんにこさんは高校生が主体となって、外国にルーツを持つ子供たちと一緒に多文化共生を推進する活動を行っている団体さんで市や県の助成金の会計処理に関する支援を希望されていました。

高校生はボランティアなので人件費はかかりません。けれども経費をきちんと記載しないと助成金の精算はできないので「どうしたらいいだろう」という点でご相談がありました。よく伺ってみると打ち合わせ等では高校生にお菓子をだすということでしたので「これは活動費になります。雑費で除外するのではなくて活動費という科目を立てて経費にしてもいいんですよ」ということを伝えたら「目から鱗です」と喜んでくださいました。
お菓子だけではなく、高校生が打ち合わせで使う場所の費用やドリンクの代金、付箋やペンなど100円ショップで買ってきた消耗品は経費にできますよというお話を元に出納帳のフォーマット作って納品しました。「このフォーマットは助成金ごとに落ちる経費と落ちない経費を品目別に設定すればどのような助成金の精算にも使える汎用性があるものです」というお話をしたところ「やってみます」という前向きな言葉をいただいてプロジェクトは終了しました。
現場見学の大切さを実感したプロジェクト
3つめのプロジェクトはNPO法人 First Stepさんの「引きこもり支援の輪を広げるための税務業務のサポート」です。

支援募集記事:引きこもり支援の輪を広げるための税務業務のサポート

First Stepさんは長年活動されている引きこもりの支援団体です。団体の会計に関しては既に企業会計が専門のプロボノワーカーが担っていましたので、今回は税務業務のアドバイスを希望されているというところで支援しました。プロジェクトでは主な税金関係の運用をお聞きし、やらなければいけないところ、改善が必要なところ、そのままで問題ないところについて毎回ミーティングの中でアドバイスし、運用フローを一緒に考えて最終的にマニュアルを提供しました。

税務業務の支援のプロジェクトでしたが、私自身たいへん関心がある活動でしたし、足を運ぶことで団体さんに対する踏み込みが変わるように思っていたので、現場見学として月に1回開催されている支援会に伺いました。団体さんを必要としている方がこんなにたくさんおられるということを肌で感じ受け取るものが大きく、NPO会計がきちんとできるマニュアル化が欠かせないということ強く思いました。「今後NPO法人を目指されるうえで会計の部分はとても大切なので今から整えていきましょう」と代表にお話したところすぐに運用フローを変えることを検討してくださいました。
GRANTでNPO会計の経験を積むことができます!
企業会計を本業としてやられていてもNPO会計となると別になりますし、一般社団法人や公益財団法人など団体によって考えなければいけないことが変わるので、会計を仕事にされている方でも、様々な実務に触れたい、公益団体会計の経験も積みたいと考えている方にはGRANTを強くおすすめしたいと思います。

特に大企業の経理業務は分業化が著しいので、企業で経理分野の仕事をしていて将来に向けたスキルアップについて悩んでいる方はみんなGRANTで経験を積めばいいと思いますし、会計を専門に活躍されていて既に第一線から離れている方には、ぜひ参加していただきたいです!

企業であれば顧問の税理士がいて、顧問だからこそできる判断がたくさんあります。でもNPO団体は顧問を置くような資金的余裕は望めないので、区分けに関するグレーゾーンの判断についてオンラインでのコンサルティングの仕組みを活用できることはすごく有益と思います。国税局の無料相談もありますが税務署への相談になるので、法人税などの国税の考え方に基づいたアドバイスの場となってしまいます。
GRANTでは団体運用内で起こる些細な会計判断や、従来の運用ルールの見直しといった現場感ある会計実務経験と知識が提供しあえる場として、機能できるのではないかと思います。
GRANTがプロボノの入り口に。会計の専門家は集まれ!
NPO団体の立ち上げの際、必要でありながらお金を回すことが難しい分野は、広報やファンドレイジング、それから会計と思います。これからは、そういった分野の専門的なチームがGRANTに存在していたら理想的かもしれないと空想します。
私たちサービスグラントも、専門方の方々に会計やNPO認定に関するサポートやアドバイスの面でお世話になりました。そういったノウハウを別のNPO団体にも活かすことができたらいいと考えますし、今後GRANTにNPO業界の底上げのための支援メニューができたら素晴らしいことです。

まずは会計を専門とする方にはGRANTに集まってきてほしい。GRANTは課題が明確で自分が対応できる・できないが判断しやすく、実際の取り組みも短期間の期間限定であることがすごくいい。チームでの取り組みよりも参加しやすい面があると思います。募集記事にはやってほしいことが1ページにまとまっていることも安心で、わかりやすく始めやすいです。そういう意味で「これなら自分でもできる」と判断できるGRANTがプロボノの入り口になってもいいのではないかと思っています。


※掲載内容は2024年11月取材時点のものです。
インタビュー一覧へ