経験者インタビュー

エントリーは応援のかたち
私たちのモチベーションに!
「こんなに世界はやさしい」

土屋光子さん
NPO法人Alopecia Style Project Japan
PROFILE
NPO法人Alopecia Style Project Japanは、「ヘアロス(髪に症状があること)をハンデとしない社会」の実現を目指して活動している団体です。2017年の活動開始以来、当事者同士が経験を共有できる場として、オンラインコミュニティの運営や実態調査を行うとともに、社会啓発のための講演活動やイベント、支援者も参加できる応援コミュニティの展開など、活動の幅を広げています。

NPO法人Alopecia Style Project Japanさんは、2022年のチームで支援するプロジェクト後に3つのGRANTのプロジェクトを実施しました。それぞれのプロボノワーカーの方々とは継続的な関係性を築いています。4つめのプロジェクトに取り組んでいるタイミングで代表理事の土屋さんにお話しを伺いました。
髪の症状と向き合い、自分らしい生き方を見つけるためのコミュニティ
私たちは、NPO法人Alopecia Style Project Japan(アルペシア スタイル プロジェクト ジャパン)、通称ASPJ(エーエスピージェイ)として活動しています。様々な理由で髪に症状がある方々(ヘアロス)とそのご家族のためのコミュニティです。Alopecia(アルペシア)とは、医学用語で「脱毛症」を意味します。
ヘアロスには、円形脱毛症や先天性乏毛症だけでなく、様々な原因で髪の毛が減少したり、後天的に発症したりするケースがあります。抗がん剤治療による脱毛は一時的なものが多いのに対し、その他の症状は再発や慢性化する傾向があり、完治が困難な場合が少なくありません。このような状況を踏まえ、私たちは症状と共生しながら自分らしい生活スタイルを見出す場を提供したいという思いを込めて、「Style Project Japan」という名称を選びました。

2017年に3名で始めた任意団体の活動でしたが、同じ症状で悩む方々が予想以上に多いことが分かってきました。「1人ではない」という気づきがもたらす心の安心を、私自身も経験していたことから、まずは交流会を開催することにしました。しかし、真の社会変革には組織的な取り組みが不可欠だと考え、2021年にNPO法人化しました。
Alopeciaの発症率については、正確な統計データが極めて少ないのが現状です。これは、脱毛以外の身体的症状がないことや、進行過程での心理的負担から医療機関を受診しないケースが多いことが要因として考えられます。私たちの調査では、男性型脱毛症(AGA)を含めると、およそ100人に1人が何らかの髪の症状を抱えていると推測しています。

現在、私たちのオンライン上の匿名コミュニティには1万人を超える方々が参加しています。特別な広報活動を行っていない中でのこの数字は、支援を必要とする方々が潜在的に多数存在することを示しています。特に近年は、お子さんのために情報を求める保護者の方々の参加が増加傾向にあることから、当事者とそのご家族双方に向けた、より包括的なサポート体制の構築を目指しています
外部支援を活用した組織基盤強化への挑戦
サービスグラントとの最初の出会いは紹介でした。2022年にチーム型で事業計画立案のプロジェクトに取り組みました。事業計画は作成したものの、具体的な進め方や着手点が見えない」という課題を抱えていた時期でしたので、迷うことなくプログラムへのエントリーを決意しました。
プロジェクト完了後、作成した事業計画をチームメンバーと実行に移していく過程で、より詳細な準備段階の作業の必要性に気づくことができました。次のステップとして、ステークホルダーの拡大を目指し、「提案書の共同作成」という具体的なミッションを掲げてGRANTに参画したのが、私たちの取り組みの始まりです。

団体内のリソースだけでは人手が不足し、事業の進捗に遅れが生じることが懸念されました。この課題を解決するには外部からの支援が不可欠だと考え、GRANTへの募集掲載を決断しました。
最初のプロジェクト~提案書は外部向けだけでなく内部でも活用
最初のプロジェクトは「ヘアロスを広めるための企業向け提案書の作成」です。

支援募集記事:ヘアロスを広めるための企業向け提案書の作成

こちらのプロジェクトではプロボノワーカーの方から「提案書を作成する前段階での認識合わせの重要性」について教えていただきました。また、事業の本質的な部分や助成金制度の基本的な考え方まで、幅広く学ばせていただく貴重な機会となりました。
成果物の提案書は、団体の外部に向けた資料としてはもちろん、内部に近い方々に現状を理解してもらうための資料としても活用しています。

プロジェクトのスケジュール

このプロジェクトでは全4回のセッションを実施しています。初回はプロジェクトの目的と進め方について共通認識を形成し、次回までの課題を設定しました。その後は、前回の課題の確認と新たな方向性の検討を重ねながら進行していきました。プロボノの方は豊富な知見をお持ちで、私たちからの小さな疑問に対しても迅速に調査・回答いただくなど、柔軟に対応いただけました。
次のプロジェクト~団体メンバーも助成金申請に取り組める体制に
次のプロジェクトは「助成金・補助金申請サポート」です。助成金の獲得は長年の課題でした。これまで申請手続きは私一人が担当していましたが、組織の持続的な発展のため、他のメンバーも申請業務に携われる体制構築を目指し、本プロジェクトを立ち上げました。

支援募集記事:助成金・補助金申請サポート

私を含む3名のスタッフで取り組み、助成金・補助金申請に関する包括的な支援を受けることができました。
支援内容は多岐にわたり、申請関連情報の効率的な管理手法の確立、団体に適した助成金プログラムの選定、さらには申請に必要なデータの具体的な整理方法などについて指導を受けました。特に心強かったのはコミュニケーションツールのSlackを活用した随時相談可能な体制を整えていただいたことで、不安なく取り組むことができました。

プロジェクト期間中には、実際の助成金申請の機会があり、申請書の文言確認から添削まで丁寧なご指導をいただいた結果、見事採択されました。プロジェクトは正式には完了しましたが、現在も継続的なサポートをいただいており、このご支援に大変感謝しております。
3つめのプロジェクト~SNS投稿の半自動化を目指しました
もう一つ、完了したプロジェクトは「SNS運用アドバイス」です。

支援募集記事:SNS運用アドバイス

SNSの運用、特に画像コンテンツの作成・投稿に課題を感じており、その効率化と専門的なアドバイスを求めてプロジェクトを開始しました。
デザインツール『Canva』や画像生成AI に精通した専門家にご支援いただきました。私自身もAIを活用した業務の半自動化に関心を持っていたこともお伝えし、効率的なワークフローについて、実践的な指導を受けることができました。
その結果、Canvaを活用した投稿カレンダーの設計・実装まで実現することができ、SNS運用の体制を整えることができました。
4つ目のプロジェクトが進行中
これまでに3つのプロジェクトを完了し、現在4つ目が進行中です。各プロジェクトは異なる分野に及び、担当いただくプロボノの方の専門性や指導スタイルも様々でしたが、いずれも大変充実した学びの機会となっています。プロボノの方々は毎回全力でご支援してくださることが伝わってきますのでとても感謝しています。

プロジェクト完了後も継続的なご支援をいただいています。日常業務で起きる相談への対応のほか、プロボノの方からの情報提供などをいただくこともあります。プロジェクト後も、見守ってくださっているような心強いサポーターという実感があります。
振り返ってみると、チーム型のプロジェクトにも大きな価値がありましたが、個人的にはGRANT型の方がより効果的だったと感じています。これは、チーム型では参加メンバー全員のスケジュール調整に苦心したことや、各メンバーともっと深い対話の機会を持ちたかったという思いがあったためです。
次のプロジェクトではチームビルディングに取り組みたい
団体では、必要な業務が発生した際に『この業務を担当できる方はいらっしゃいませんか』と募り、可能な方にお願いする形で運営しています。その際、参加者それぞれにとってASPJへの関わりがどのような意味を持つのか、例えば活動自体がその方のメリットになるのか、あるいはご自身のスキルを社会貢献として提供したいのかなど、個々の状況や意向に配慮しながら進めるよう心がけています。

私自身、ASPJの活動はボランティアであり、純粋な想いが原動力です。創業期から『互いが前向きに取り組めない活動は、結果的に誰にとっても良い結果をもたらさない』という考えを基本理念としています。活動に関わる私たち自身が楽しめないことは、参加者の方々にも良い影響を与えられないと考えています。ただし、楽しい活動を実現するために必要な努力については、メンバー全員で協力して取り組むよう促しています。
当事者主体で設立した団体であるため、組織運営や事務管理など、多くの課題に手探りで取り組んでいた際にGRANTをご紹介いただきました。様々なサポートをいただきながら、組織として着実に成長を遂げています。現在は実務を担当できるメンバーも増えてきましたので、次のステップとして専門家の知見を活かしたチームビルディングに取り組みたいと考えています。
第三者だからわかること
「自分のスタイルを見つける」という想いを大切にしています。症状を隠すのも、その人のスタイルですし、隠さずスキンヘッドで歩くのもその人のスタイル。どれを選んでもいいし、選択を変えてもいい。これは運営する私たちも同じで、最初にこれがやりたいと思っても、やってみたら違うなと感じることもあります。それを伝え合える空気感が大事だと思っています。

当事者団体ならではの課題として、内部の視点だけでは気づけない点が多々あることも実感しています。外部の方々からの客観的な視点や助言は、新たな気づきをもたらしてくれます。また、団体内部のメンバーでさえ、時として第三者だからこそ率直に意見を述べられることがあります。このような外部との協働・連携が、団体の成長に不可欠だと考えています。
こんなに世界はやさしい
多くの団体活動者は、最初は自力での解決を目指しがちです。しかし、「手伝いたい」という方々が予想以上に多く存在することに気づかされ、それは非常に心強い発見でした。サポートを得ることで、活動の進展も格段に加速します。特に印象的なのは、プロボノの皆さまが、それぞれの専門性と経験を惜しみなく提供してくださることです。このような質の高いサポートを無償で受けられることに、深い感謝の念を抱いています。
団体運営において、課題の特定すら困難な時期があります。そのような状況こそ、躊躇せずに相談することをおすすめします。私自身、多大なサポートを頂いた経験から、専門的な支援が必要だと感じた際は、プロジェクトを立ち上げ、支援を募ることが有効だと実感しています。

プロボノの皆さまは、私たちの成長への意欲を評価し、それぞれの専門性を活かして力強く支援してくださっています。その献身的なサポートは、私たち全メンバーに大きな刺激を与えています。特に、ボランティアでありながら、プロフェッショナルとしての高い質と情熱を持って関わってくださる姿勢は、メンバーの意識改革にもつながっています。これは私の言葉だけでは伝えきれない、プロボノ支援がもたらした重要な変化だと考えています。
募集プロジェクトに、プロボノの方々からエントリーを頂くだけでも、私たちの活動への大きな励みになっています。このように応援してくださる方々の存在は、何よりも心強い動機付けとなっています。団体メンバーを家族とするなら、プロボノの皆さまは、困ったときに相談できる心強い、ちょっとはなれた親戚のような存在です。この出会いと支援に感謝の気持ちでいっぱいです。


※掲載内容は2024年10月取材時点のものです。