経験者インタビュー

プロボノは想いと経験がつながる機会
さまざまな出会いが
人生の豊かな経験につながっています

林 直人さん
エネルギー関連企業
PROFILE
育児休業中にプロボノと出会った林さんは、チーム型の経験を経て、これまで3つのGRANTプロジェクトに取り組みました。プロジェクトの様子やお仕事での経験につなげて感じたことなどについてお話を伺いました。
※林さんのGRANT参加実績はこちらからご覧いただけます。
育児休業中に出会ったプロボノ
6年前に育児休業を取得しました。生まれたばかりの子供を抱えながら街を歩くと普段の仕事ではあまり意識していなかったものが見えてきました。たとえば、道路の勾配でベビーカーを押すのも苦労したり、子供と一緒にゆっくり過ごせる場所が少なかったり。意外と社会にはまだまだ不便が多いと感じていた時にウェブサイトでプロボノ活動を知りました。育休中で時間があったので「プロボノ参加者向け説明会」に行ってみよう、というのがきっかけでした。以来、今でも活動を続けていて、プロボノ歴は6年になります。

勤務先はエネルギー関連企業で、主に投資業務と法人営業業務に携わっています。具体的にはクリーンなエネルギーへ事業投資をし、そのエネルギーを使う法人を探す、さらにそのための資金調達を担当しています。いくつか社外発表をしていまして、来シーズンから再生可能エネルギーで甲子園球場を運営する案件もそのひとつです。

仕事は楽しく、充実している一方、子供から「パパはどんな仕事しているの?」と尋ねられても説明が難しいと感じていました。たとえば「事業投資して収益を上げる」と説明しても、多分子供は首を傾げると思うんです。子供に対して「パパはこれやってるんだ」と言える人間になりたい、「パパは子供の遊び場を作る人たちを応援してるんだよ」みたいなことを言えたらすごくいいなと思っていました。
プロボノの最初はチーム型の参加経験から
ずっとスペシャリストには「なりたくない」と思って仕事をしてきました。キャラクターが固定されると与えられる仕事やチャンスが狭くなると思い、仕事では「なんでもやります」状態を選んでやってきました。なので「プロボノで自分のスキルを活かそう」というメッセージを受け取ったときはドキドキしました。「自分は尖ったスキルはないけど大丈夫かな」と不安に思ったことを覚えています。

プロボノ経験はチーム型で3件のプロジェクトに参加することからスタートし、チーム型のすべての案件でクリエイティブ系の役割を担当しました。
仕事では論理性や数字を重んじる文化にいますが、元々デザインが好きで学生時代は広告会社で仕事をしていました。この経験は社会人になってからもプレゼンテーション資料を作ったり、ブログのサムネイルをデザインしたりと業務を進める上でも役立っています。一方で、業務ではプロジェクトマネジャー的なポジションなので手を動かすことが少なくなってきたという実感も持っていました。隅々まで納得いくような資料を作りたい、自分でも素敵だなと思えるウェブサイトを作りたいという想いと培った経験がつながる機会になったことはプロボノのいいところだと思います。

チーム型の最初の2つのプロジェクトは子供に関連する団体さんです。ちょうど子供が生まれた時期に重なっていたこともあって自分ごととして捉えて参加したことを記憶しています。初めてのプロジェクトで支援した団体は、地域の子供たちがスポーツを楽しめる場を作るミッションでした。冒頭で「パパは子供の遊び場を作る人たちを応援してるんだよ」と言えるような姿に、このプロジェクトが導いてくれました。
3つめのプロジェクトは、食を通じて安心できるまちづくりを目指している団体さんのウェブサイト制作です。このプロジェクトはサービスグラントの事務局からの声掛けがきっかけで参加することになったのですが、普段は意識していなかった社会課題に触れるきっかけになりました。
プロジェクトのヒアリングでは、団体さんは自分たちの活動の価値や目的をうまく言語化できていないかもしれない、課題の認識について外の方と温度差があるかもしれないといった気づきがありました。そこで、チームから「みなさんがやりたいのはこういうことではないでしょうか」と提案をして、団体にとっても「自分たちの活動の価値は何か」を知る機会を創出できました。そうした行動を評価いただいたのか、プロジェクト終了後に、団体の理事への就任について声を掛けていただきました。プロジェクトの参加がきっかけとなり現在もこちらの団体さんの理事をやっています。
GRANTのプロジェクト
GRANTの最初のプロジェクトは徳島県のNPO法人 川塾さんの支援です。希望された支援内容は営業資料でしたがGRANTでは2つのプロジェクトに分けて募集されていました。
最初のプロジェクトは「団体価値の言語化」です。

支援募集記事:団体価値の言語化


上記のプロジェクトは、NPO団体でリーダーの立場にある3人がチームを組んで参加者として取り組むことが決まり、次に最終的なアウトプットとして「企業向け営業資料の作成」を僕が担当することになりました。僕は2本目の営業資料を担当するにあたって1本目のプロジェクトにも参加しました。

僕はベンチャー企業に投資するという仕事での経験から「企業の価値を外部の立場から捉える視点」は身についているのですが、「団体の中から自分たちの価値を認識する視点」は持っていなかったように思います。最初のプロジェクトのチームメンバーとしてご一緒したNPOの代表のみなさんは「もしも自分がそこに入ったら」という目線で団体の価値を言語化されていて、クライアントの課題の「自分ごと化が速くて深い」というところは学びたいと思いました。
仕事での思考プロセスを活かす機会になった営業資料のプロジェクト

支援募集記事:企業向け営業資料の作成


企業向けの営業資料では、図式化や抽象化が効果的です。そういったポイントを意識しながら作成を進めました。全部を僕が作ってしまうと団体さんにとって自分ごとにならないと思い、写真を選ぶ、文章を考えるというところは団体さんに委ねる状態で成果物を納品しました。

川塾さんのプロジェクトの営業資料(成果物より抜粋)


営業資料というと「大多数にいいと言ってもらえるもの」を目指しがちですが、本業での経験から、「すべての人に刺さりそうな資料は意外と誰にも刺さらない」ということを実感していました。1つ具体的な提案先の企業を定めて、その企業を徹底的に研究して何が欲しいかをある程度ピックアップし、欲しいものに合うように自分たちの商品を価値づけていく。そのようなプロセスを踏むことで相手の認知のステップが早くなるように思います。
このような方法は「1つの企業にしか使えず効率が悪いのでは?」と思われがちですが、意外と1つの企業にはまるような価値を考えて資料に落とし込んでいくと、対象の会社が変わっても同じ思考プロセスが使えるので、遠回りのようで近道だったりします。

プロジェクトでは「誰に届けるか」ということをクリアにして、「自分たちが当たり前にやってることもこういう側面があるのか」「こういう表現が企業に受け入れられるんじゃないか」といった視点を意識して進めていきました。試行錯誤しながらようやく完成にこぎつけたのですが、そういう体験もすごく良かった、魅力的な経験になったと思います。
次のオンライン相談は自身の価値を認識する機会に
次に参加したのは、認定NPO法人まなびとさんのオンライン相談「企業とのコミュニケーションに関する壁打ち」です。
川塾さんのチームのプロジェクトでご一緒した方が、僕の仕事の「投資側の立場」としての経験に関心を持ってくださり、代表を務める団体で検討している「企業版ふるさと納税の活用に関する企業営業のロジック」について壁打ち相手になって欲しいという希望を伺い、オンライン相談で進めることになりました。

僕自身は仕事での経験が価値があるものとして見られているというシンプルな気づきになりました。代表の方は「まなびと」という組織を率いていて、こだわりをお持ちの面もあると思いますが、「いいものはいい」と自分の考えと違うことでも受け入れる柔軟さはとても印象的で自分もこうありたいと感じました。

支援募集記事:企業とのコミュニケーションに関する壁打ち


「企業版ふるさと納税」についての詳しい知識は持っていなかったのですが、企業が特定の団体に寄付することのハードルの高さというのは仕事でも感じる機会がありました。企業がお金を出す場合、特に上場企業は強いガバナンスを求められるので、「いい活動をやっている団体だから寄付しましょう」では当然通らない。寄付することによって自分たちの会社がどう見られるかとか、企業価値にどうつながってるのかという文脈で説明していかないと、企業の中ではなかなか先に進んでいかないことをお話しました。

仕事では1つのことを実行に移す時にいろいろな人の同意を得ないといけない場面がありますが、うまく工夫して乗り越えると自分のやりたいことができます。そういう経験が価値を持っていて社内調整・合意形成のようなことが意外と大事だったりするという確認の機会にもなりました。
プロボノは貢献の実感を感じられる
本業では個人のレベルではできない、スケールが大きい事業に取り組むことができます。とても刺激的ですが、スケールが大きくなればなるほどたくさんの人とお金を巻き込むので、自分とは違う多くの考えを受け入れなければなりません。その結果、自分のこだわりの割合が最後にはすごく小さくなる。最終的にできたもののスケールが大きくなるほど、「自分の力がどこまで役に立ったのかな」という感覚があったりもします。

プロボノの場合は、取り組む単位がチームでも個人でも基本的に自分の考えを相手に伝えてそれに対するフィードバックを得ることになります。シンプルに自分の修行の場所としても使えますし自分の感覚のずれについてもわかります。成果物にも自分のこだわりを形にできるので貢献の実感が得やすい感覚があります。
プロボノが豊かな経験につながっている
最近は本業の時間のウェイトが高く、なかなかプロボノにかかわることが難しい状況ですが、隙間時間ができたらまたやりたいと思っています。
中でも子供にかかわるような活動には今も関心があります。本業ではBtoB(企業同士の取引)の仕事をしているので、プレスリリースやメディアによって注目を浴びることはあっても、さらに向こう側にいる人々、たとえば僕の子供までメッセージが届いてるかというと自信がありません。以前は仕方がないと割り切っていましたが、プロボノを経験した後は割り切れなくなり、最近ではどうやってそこにリーチするかという考え方に変わってきました。
例を挙げると、最近発表したプロジェクトの延長線上で、小学校の環境教育に参加してデジタルの教科書を作ることに取り組みました。そのような活動は、おそらくプロボノをやっていなければ自分としては思考の外にあったことと思います。まわりにも「面白そう」という空気が広がるような取り組みになったことが嬉しいですし、プロボノの経験が確実に本業の方にもフィードバックされていることを肌で感じました。今回の環境教育のお話を聞いたときに、すぐにチャンスと思って「やります」と答えました。このようなセンサーはプロボノによって培われたものと思います。

以前から、「僕自身の個性とは、まわりの10人の個性の平均値」と考えてきました。だから、まわりの10人を変えれば自分も変わる、仕事と家の往復だけで10人がある程度固定化すると、自分自身の個性にも変化がないと思っています。そういう意味でプロボノでの出会いは確実に僕を変えてくれている。人生において豊かな経験をさせてもらっていると思っています。
まずは行動! 飛び込んでから考える
業務やプロジェクトを改善するための管理手法でPDCA(ピー・ディー・シー・エー)があります。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)で「考えてから行動する」なんですけど、僕は逆で「行動が最初」と思っています。飛び込んでから考える方がうまくいく。
強い思いや目的意識、自分の覚悟がないうちは行動に踏み切れないという人を多く見ていますけど事実は逆です。何かを成し遂げた人は、やらずにはいられないという行動があって、その後でその意味が付いてきます。行動したからこそ見えてきたものがあって人生を広げたに違いないけれど、そう言うと成功談にならないので逆に言っているんです(笑)。

迷いや意味の答えは行動の後に分かります。GRANTのプロジェクトで惹かれるものがあればエントリーする。「やりませんか?」と言われたら「やります」と答えるのがいいと思います。本業では慎重に物事に取り組むことを否定しませんが、プロボノは自由な機会です。行動してから考えるぐらいの気持ちでまずは飛び込んでもらえたらと思います。


※掲載内容は2025年2月取材時点のものです。
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