経験者インタビュー

GRANTは団体や課題のカタログ   
ちょこっとの支援を通して、
活動の幅をどんどん広げていきたい

小林ヒロカズさん
IT企業勤務
PROFILE
50歳になったことを機に地域に踏み出した小林さん。拠点である東京都府中市の市民活動団体(Code for Fuchu)で地域の支援をメインとしながらこれまでに7つのプロジェクトに取り組みました。
※小林さんのGRANT参加実績はこちらからご覧いただけます。
GRANTを活用しながら活動の幅を広げている小林さん。プロジェクトの進行で留意していることやこれからの活動についてお話しを伺いました。
50歳で地域に踏み出しました
IT企業でサービスのマネジメントを担当しています。私にとって会社でやっていることとプロボノは同じでサイズ感が違うだけと思っています。NPOや市民活動、地域活動といったソーシャルセクターにはなかなか企業の手が届かない中で、企業で働いている私が地域活動を支援するのがいいんじゃないかと思いました。会社で培ったITサービスの知識を地域に持っていくとか、プロジェクトマネジメントのスキルを活かしながら地域の人たちに貢献していくことだったらできるかなと考えて、2015年から会社勤めをしながら地域に踏み出しました。

2015年というのは私が50歳になった年です。今は雇用延長がありますけど、そのころの定年は60歳で、60歳になったら会社から出なくちゃいけないという時代でした。「会社で働くのもあと10年だけ」「60歳になったら自分はどうなる?」と考えたときに、定年後は間違いなく自分の住んでいる地域の人と接する時間は増える。そう思ったのでまずは地域を知ろうと思いました。今まで地域に支えられてきたので、会社での経験やスキルで地域に恩返ししたいという使命感のようなものも芽生えました。

さらに自分の居場所や役割を作るのが大事だと思い、50歳からの10年を使って地域の中に自分の「椅子」を据えようと考えました。60歳になってから座るために10年前から助走を始めよう、そんな気持ちになったことが地域に出たきっかけです。
具体的に困っている人への支援の機会が「GRANT」
会社に勤め始めてからは、生まれ育った東京都府中市のことはほとんど知りませんでした。地域に出たタイミングで府中NPO・ボランティア活動センター(府中市市民活動センターブラッツ(以下、プラッツ)の前身)からのお話しがきっかけで「Code for Fuchu」を立ち上げ地域活動をしていましたが、ITで課題解決しよう、地域貢献しようと思ってスタートしたもののなかなか課題が見つからないし課題解決にもつながりませんでした。

2021年にプラッツからGRANTのコーディネーター「ちょこっとプロボノ@府中」を始める話を聞いてGRANTのページを見てみたところ、具体的に困っている人がいるんだ、というのがわかって「じゃあやってみようかな」と思ったんですね。私は「ちょこっと」が大好きなので、あまり「でっかく」やらないで「ちょこっと」やろうと思いました。GRANTを使いながらつながりを作って「助けてくれませんか?」と声がかかったらその機会を活かしながらプロボノ活動を行っています。
最初のプロジェクトは「ちょこっと」支援
さっそくGRANTの参加登録をしたんですけど、自分のプロフィールを入れるのがすごくたいへんで、自分を伝えるっていうのは難しい、この書き方でいいのかとかわからずに不安だったことを覚えています。

初めて取り組んだのは、エコショップ元気広場さんの「団体Facebookの充実」というプロジェクトで、自分でもできそうと思ってエントリーしたという感じです。

支援募集記事:団体facebookの充実


ちょうどコロナの最中(2021年8月)だったので団体さんとはZoomでお会いしました。その場にはGRANTのコーディネーター「プロボノ@八王子」(八王子市民活動支援センター)の方も同席されました。

最初のプロジェクトで要領がよくわからず、どうやって団体さんとお付き合いしたらいいのかという点が難しかったんですけど、すぐに慣れてその場で事前の打ち合わせから作業まで一気に1日で終わらせてしまいました。午前中の打ち合わせ後に「このままやりましょう」ということになって、お昼をはさんでZoomの画面越しで進めていくうちに「できました、ありがとうございます」となってプロジェクトが完了しました。団体さんはITやスマホにあまり慣れていないのでたいへんな面もありましたが、面白かったので私から「引き続き午後もやりましょう」って言いました。ほんとに「ちょこっと」のプロボノでした。
団体さんには「すごいすごい」「できた」「画面が変わった」とすごく喜んでいただいたので、わたしもついつい一気呵成に進めてしまったんですよね。こういった形で、実働2,3時間で支援できるのだったらこんな面白いことはないと思ってどんどん手を挙げた時期もありました。
自分のスキルで支援できるプロジェクトを選択
プロジェクトを選ぶ基準は自分がやりやすいもの、確実にできるものということを大切にしています。私は、挑戦するとか、この機会に勉強しながらということはあえてやらないようにしていて、助けてほしいと言ってる人を自分が持っているスキルでしっかり助けることを心がけています。確実に、ちょこっとできるプロジェクトを選んでいますね。

エコショップ元気広場さん以外にも1日で完了したプロジェクトはいくつかあります。お山で遊ぼう実行委員会さんの「ホームページの作成」や府中JSL学習支援の会さんの「作文コンクールの告知サイトの作成」も1日で終わらせたプロジェクトでした。
ふぁぶらぼ☆くらぶさんの「 折り紙の折り方手順を動画撮影してください」は動画の撮影が1日でその後に編集の作業を行いました。動画の撮影や編集は趣味でやっていたのでお手伝いできました。このプロジェクトは印象に残っているんですよね。

支援募集記事:折り紙の動画撮影のプロジェクト


「ちょこっと」支援する姿勢は最初にお伝え
ふぁぶらぼ☆くらぶさんのプロジェクトは折り紙の手順を動画におさめたいという内容でした。その動画を見ることで、折り紙を楽しむ人が増えたり、高齢の方が教わった折り方を思い出せるようにしたいということでした。始めた後に要望が膨らみ、終わりがわからなくなってしまうことが懸念されました。そこで、プロジェクトのコントロールには気を付けました。難しいところもありましたが最後はうまくまとめて納品となりました。

団体さんはYouTubeなどを見て動画のイメージを持っていたと思うんですけど、自分の手元がどう映るかまではイメージがつきづらい。そのためとにかく撮影した動画をどんどん見ていただくようにしました。
7月3日にまず折り紙の手元を撮影しました。その時は声は録らずに手元だけ撮って、17日に解説を録音し、8月9日に動画に解説を重ねるミキシングをし、団体の方に確認いただきながら手直しをして仕上げたという感じです。団体さんには、最初から完璧を目指さない、ということを理解していただきながら前に進めていきました。
ふぁぶらぼ☆くらぶさんはGRANTアワード2023で「[特別賞] こんな支援もありましたで賞」を受賞されていましたね。

完璧を目指さないということについてですが、私は必ず「ちょこっと支援します」というお話しを最初にします。がっつり取り組むプロボノの方もおられると思うんですけど、それをやってしまうと会社勤めもありますし両立が難しい。さらに、ひとつのプロジェクトに入り込んでしまうとたくさんの団体さんのプロジェクトに関わることが難しくなるという思いもあります。あまり高い期待を持っていただかないよう「ちょこっとのご支援となりますけど」という点をお話ししたうえで「それでいいです」「それでも十分助かるわ」という団体さんと一緒にやっていくのがいいと思っています。そのあたりの自分の姿勢を最初に見せるというのは大事かもしれないと思っています。
GRANTでの経験はプライスレス
GRANTは団体さんが取り組んでいる課題や活動を知って団体さんと直接触れて、また聞きではなく団体さんと一緒に課題を解決するのがすごくいいなと思います。
GRANTの良さは団体さんが取り組んでいる課題や活動を知って団体さんに直接触れ、団体さんと一緒に課題を解決できる点です。GRANTではふぁぶらぼ☆くらぶさんのような折り紙の活動の団体さんや小学生の絵画の作品展を開催する活動をしている団体さん(MOA美術館府中児童作品展実行委員会「ホームページの画像入力についてのアドバイス」との出会いがありました。プロボノを通じて、これまで知らなかった世界を知ることができましたし、新しい課題に向き合うこともできました。活動されている方のお話を聞くこともできる。そういう意味ですごく自分の成長につながるし、人生の豊かさが増していくことを感じました。こういうところがとてもいい。お金では買えない貴重な経験を得られますね。
ステップごとに双方が合意しながら進行
プロジェクトでは「言った言わない」になってしまったり、団体さんの要望がどんどん広がって「ここもやってくれると思っていた」ということになるとお互いがイヤな思いになってしまう。それが一番よくないと思いますので、そうならないよう双方がよかったと思えるような終わり方をするようにいつも工夫しています。そのためには最初にお話しをするところがとても大事だと思っています。実作業に入る前に団体の期待をすり合わせるのですが「ここまではできるけど、ここからはできません」とか「出来上がるのはこういうものです」「進め方はこうします」とか、最初に説明して合意していく。この部分は注意深くやっています。そしてそれをしっかり記録に残すようにしています。GRANTには「プロジェクトの進行管理」を記録するという仕組みがありますよね。あれはすごくいいと思っていて、私はできるだけ具体的に書いて残すようにしています。

【例】プロジェクト進捗管理画面 地域を明るくするリハビリテーション専門職の会
「介護施設向けに撮影した移乗介助方法の動画を編集する。」


実際に動画を撮るとか、ホームページを作るとかというのはあまり苦労はなく、プロジェクトのマネジメントに一番労力を割いています。高齢の方にも解る言葉を使ったり、進め方を最初に決めてひと区切り終わるごとに「ここが終わりましたね」「はい、わかりました」と一緒に確認することは大事かもしれないですね。最後まで進んでから「いやそうじゃないです」と言われたら困ってしまいますよね。そうならないように途中で一緒に確認したり方向性を合わせながら進めるという点に気をつかっています。
私にとってGRANTはカタログです
GRANTは私からするとカタログのようなもので団体からの要望一覧に見えます。GRANTで募集記事を見て自分ができそうなことがあればちょっとやってみようかなという感じです。自分で選ぶことができるのがいいですね。

どういう団体さんがどういう活動をしているかを知る機会はなかなか少ないんですよ。GRANTを見ることによって、課題を解決しようというたくさんの団体さんを知ることができます。そこに飛び込むことができる仕組みが整っているので、活用しながら団体さんに入っていける、協働できるというのはすごくいいですよね。社会課題や活動を知ることができるということだけではなく、そこに参加できるという喜びはとても大きいと思います。その機会を与えてもらえることはとても助かりますし、だからいつも探しています。
自分ができることを求めている人がいる
これからGRANTでやってみようという方は、そんなに大きなことはやらなくてもいい、自分ができることをちょこっとやる気持ちで始めてみるといいと思います。ちょこっとやってみたらだんだん大きくなるかもしれません。私もやっているうちに自分ができることを求めている人がいるということがわかりました。ちょこっとやってみましょう、と皆さんにお伝えしたいですね。

私が府中市で2015年から始めた地域活動の経験をほかの地域でも活かしたいと考えています。八王子市での活動はそのひとつで、GRANTでの団体支援をきっかけにその後も継続的にいろいろなかかわりを持ちました。その結果、プロボノ活動に対する感謝状を頂戴しました。2019年からは伊豆大島に通い子供たちにコンピュータープログラムの楽しさを伝えています。このように、これからも境界線を設けずにいろいろな地域に飛び込み一緒に課題解決を楽しみたいと思っています。


※掲載内容は2024年1月取材時点のものです。